Masaos spice talk 谷内雅夫のspiceエッセイ

ホテルオークラ福岡のレストラン情報誌「HAKATA spice」

MASAO's talk

ホテルオークラ福岡 総料理長 谷内 雅夫によるエッセイです。毎号、食に纏わるテーマで経験談や思いをつづります。

色あざやかなパプリカで思い出すのはオランダである。昔、輸入パプリカと言えばオランダ産で、定番の赤や黄色はもちろん、黒、白、緑のカラーバリエーションが存在するほど研究も進んでいた。さすがはチューリップの国である。それならばさぞ豊富なパプリカ料理があると思いきや、実はそれほど多くない。こういったオランダの面白さや、魅力を知ったのは30年程前のアムステルダム暮らしだった。一番に驚いたのは、キッチンの美しさ。どの家も整頓され、油汚れひとつない。真相を探れば、これまた意表をつかれる。キッチンを汚す料理をしないのだ。油の跳ねを嫌うオランダ人は、いたってシンプルに、茹でるなどの素材中心の料理が多い。良質な素材があるのも理由だろう。チーズ、バターなどの乳製品ひとつをとっても、もう何もいらないと思わせる味で、料理をする気は失せていく。さらに、オランダ特有の礼節さも印象深かった。ある日、地元で有名な街のパン屋に入ったときのこと。すでに数人の客がいて、私の後にも何人か入って来た。商品を吟味しているとある人が「次はあなたの番よ」と言う。オランダのお店では、会計はカウンターに並んだ順ではなく、店に入った順という客同士の見えない礼儀が存在している。それはパン屋に限らず、肉屋も魚屋も同じくマナーがいい。その店にもライ麦パンの香りと心地よい譲り合いの空気が流れていた。夏の夜、ムール貝と白ワインで我が蘭学を復習すれば、チューリップやパプリカの彩りは、美しいオランダ文化の心をも宿した究極の“素材料理”という答えに到達する。

※このエッセイはレストラン情報誌「HAKATA spice」6-8月号に掲載しています。

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